猫の毛色と柄模様

猫の毛色と柄模様

 

猫の毛色や柄模様は猫の進化の過程で遺伝子によって決定されてきました。

私達が日頃身近に接している猫達は分類上は「イエネコ」と言われ、野生の「ヤマネコ」が人間に飼われるようになって進化したものです。

猫の毛色と柄模様について進化の流れの中で見てみましょう。

ヤマネコはヨーロッパをはじめとして世界各地に分布しています。

日本にも生息しているイリオモテヤマネコツシマヤマネコはベンガルヤマネコの亜種です。

ヤマネコから人間に飼われるようになったのはヨーロッパヤマネコの亜種リビアヤマネコだけです。

「イエネコ」として人間と暮らしている猫たちはみなリビアヤマネコのDNAを持っていることが近年証明されました。

猫の祖先リビアヤマネコは”砂漠の猫(Desert Cat)”とも言われ、エジプト文明開化の中で、穀物倉庫やパピルスの書物が収納された世界最古の図書館などを荒らすネズミの害から守るために飼われたとされています。

同じく人間と生活を共にするようになって進化した犬が、早くから狩りに使われて3万年の歴史と400種以上の犬種があるのに比べ、猫の場合はその5分の1の時間と40種程度の猫種に限られているのも納得できます。

しかも多くは19世紀後半以降に新しく突然変異などで誕生した猫種です。

リビアヤマネコの「キジ柄」は目立ちすぎて自らを危険にさらすことのないよう生きてゆくために適応した柄です。

人間との生活の中で危険がなくなった猫は、バラエティに富んだ様々な柄模様になりました。

毛色と柄模様は遺伝子の作用

キジトラ柄はリビアヤマネコと同じ、猫基本型の柄模様です。

 

 

リビアヤマネコ(左図)とキジトラ柄の猫(右図) (Wikipediaより引用)

キジトラ柄の猫の模様は「アグチパターン」と言い、一本一本の毛が黒と褐色の層になっていることで発現します。

近年、猫がどんな毛色や柄模様になるかは、9種類の遺伝子が関与していることが遺伝学の研究でわかってきました。

猫の毛色と柄模様を難しくしているのは、進化の中で作用している遺伝子の働きがまだ完全に解明されていないためです。

ここでは猫の毛色と柄模様を説明する上で、「遺伝子の役割」と「猫の外見」の二つの視点で分類します。

遺伝子とその作用による分類

優性「B」>劣性「b」のブラック遺伝子
野生型:BB

・毛色を黒くします

・黒色の元となる「ユーメラニン」という色素の生成量を決めています

 

優性「W」>劣性「w」のホワイト遺伝子

野生型:ww

・毛色を白くします

・優性のW遺伝子の働きは強力で、無条件で被毛を真っ白にします。他の毛色遺伝子の作用はW遺伝子により抑制され、外見から全くわかりません。そのため、白猫から生まれてくる子供たちはどんな色になるのか予想がつきません。

※ 白猫の目色と聴覚障害

白猫の目の色と聴覚に障害のある関係は古くから知られたところであり、ブルーアイで65~85%、片目の青いオッドアイで40%、両目とも青くない場合でも20%が難聴であったとの研究データがあります。

動物の皮膚や被毛の色は「メラノサイト」と呼ばれる色素細胞で作られます。

強力なW遺伝子はこの働きを抑制してしまうので色素が作られず、被毛が白くなります。

「メラノサイト」には、音の振動を感知するコルチ器と呼ばれる器官を形成する役目もあるため、これが正常に働かないと難聴が起きるのです。

ブルーアイに難聴が多いのは「メラノサイト」の働きが弱いためです。

 

優性「O」>劣性「o」のオレンジ遺伝子

野生型:♂「oY」、♀「oo」

・毛色を茶色にします

・猫の毛色を難しくする一つにこの遺伝子が関係しています。他の遺伝子はすべて染色体上に存在していますが、O遺伝子は性染色体であるX染色体上にあるため、オスとメスで発現が異なります。オスの性染色体は「XY」ですから。

 

優性「A」>劣性「a」のアグーチ遺伝子

野生型:AA

・縞模様の有無を決めます

・優性のA遺伝子は1本の毛に縞が入る「アグチパターン」という模様になります。リビアヤマネコと同じです。

 

優性「C」>劣性「c」のカラーポイント遺伝子

野生型:CC 毛色は変化しません

・濃い色をどこにつけるかを決めます

・部分的に濃い色が現れることから「Color Point」のCに由来しています。優性のC遺伝子は濃淡の少ないフルカラーになり、劣性のc遺伝子は耳や足先さど体温の低い所が色づきます(温度感受性アルビノ)。シャム、バーミーズ、トンキニーズなど。

 

優性「T」>劣性「t」の縞模様遺伝子

・縞模様の形状を決めます

・トラのような縞模様をもつ猫の意「Tabby」のTに由来しています。優性のT遺伝子はタテ縞(マッカレルタビー)、劣性のt遺伝子は渦巻き模様(クラシックタビー)になります。

T遺伝子は柄模様に関する遺伝子として、トラ・渦巻き・斑点・霜降りといった模様が発現するとされてきました。

しかし、その後の研究により、トラと渦巻きは同じ遺伝子変異であるが、斑点霜降りについてはそれぞれ異なる遺伝子変異であることがわかりました。

そのためここでは歴史あるT遺伝子を、トラと渦巻き=「Mc」、斑点=「Sp」、霜降り=「U」と表示します。

 

優性「MC」>劣性「mc」のトラ・渦巻き遺伝子(Mackerel Tabby)

野生型:MCMC 

優性のMCMC接合ではトラ模様(マッカレルタビー)に、MCmc接合では縞模様がやや乱れ、劣性のmcmc接合の場合は渦巻き模様(クラシックタビー)になります。

 

優性「SP」>劣性「sp」の斑点遺伝子(Spotting Tabby)

野生型:spsp 

エジプシャンマウなどに見られ、スポッティッドタビと呼ばれている。

 

優性「U」>劣性「u」の霜降り遺伝子(Unpatterned Tabby)

野生型:uu 

模様がほとんどなかったり、四肢や尻尾に限られ霜降り状態になっているものを「ティックドタビー」といい、アビシニアンやソマリに見られる特徴です。

 

優性「I」>劣性「i」のインヒビター遺伝子

野生型:ii

・毛の根元を白くします

・inhibited(抑制)という意味で色素を抑制する働きがあります。優性のI遺伝子になると根元の色がシルバーになります。

 

 

優性「D」>劣性「d」の色素遺伝子

野生型:DD

・色素の濃淡に関係します

・Dilute(薄める)、Dense(濃度)のDに由来しています。優性のD遺伝子は被毛を濃い色味にします。劣性のd遺伝子は茶色をクリームに、黒をグレーに薄めます。

 

優性「S」>劣性「s」のスポッティング遺伝子

野生型:ss 白斑は生じない

・白斑模様を作ります

・優性のS遺伝子は部分的に白くするので白斑、またはバイカラーになり、劣性のs遺伝子は白斑のない単色になります。

優性のSS接合では面積の広い白斑、Ss接合では胴体の一部や四肢など狭い範囲に白斑が生じます。

キジトラ+白斑=キジ白

黒猫+白斑=黒白

二毛+白斑=三毛

※ 白斑は「家畜の表現型」

白斑は主に家畜化した動物に見られる特徴の一つで、「家畜の表現型」とも呼ばれています。

猫だけではなく、犬・牛・馬・豚などの哺乳類のほか、ニワトリなどの鳥類や金魚・鯉などの魚類にも見られます。

 
遺伝子の作用・一覧
B 毛色を黒くする
W 毛色を白くする
O 毛色を茶色にする
A 縞模様の有無を決める
C 濃い色をどこにつけるかを決める
I 毛の根元を白くする
D 色素の濃淡に関係する
S 白斑模様を作る
T Mc トラ・渦巻きの模様が発現
Sp 霜降り模様が発現
U 斑点模様が発現

 

毛色と柄模様による分類

単色(ソリッド)

 

・ブラック(黒)

・ブルー(灰色、グレーのことを呼びます)

・チョコレート(褐色)

・レッド(鮮やかで茶色がかった赤色)

・クリーム(薄い黄色がかった茶色)

・ホワイト(純白、角度によってはシルバーがかって見える)

 

ティップドカラー(ティップド)

 

毛先だけに色がついていることをティッピングと呼びます。

このような毛色はティップドカラーと言い、色の割合によって名称が違います。見た目の濃淡で呼び名が変わるわけです。

・チンチラ

ティッピングの割合が1/4~1/3の被毛。

シルバーの場合はチンチラシルバー、ゴールドの場合はチンチラゴールデンと呼ばれています。

ペルシャ猫の毛色の1つなのでよく知られています。

げっ歯類で毛皮のコートなどに使われるチンチラと毛色が似ているため、名前が付けられたと言われています。

・シェーデッド

ティッピングの割合が1/31/2の被毛。

・スモーク

ティッピングの割合が1/2~3/4の被毛。

 

トータシェル(サビ)

 

赤と黒、赤とシルバーなど、赤系統の色がモザイク状に入り組んだ柄模様です。

亀の甲羅(tortoiseshell)に似ているのでトータシェルと呼ばれています。日本では”サビ猫”のことです。

 

タビー

 

縞模様柄のことです。

大きな縞模様をクラシック、鯖柄の縞模様をマッカレル、ヒョウ柄の模様のような細かい斑点があるものをスポッテッドと呼びます。

・クラッシックタビー

脇腹に大きな丸い縞模様が特徴です。

うねりのある雲のような縞模様が全身を覆っています。

・マッカレルタビー(鯖柄)

全体的に細い縞模様で魚の鯖(マッカレル)を意味して呼ばれています。

トラのような縞模様の猫もいます。ストライプドタビーとも呼ばれます。

・スポッテッドタビー(ヒョウ柄)

英語でスポット(spot)と呼ばれている”斑点”の意味です。

日本ではヒョウ柄と言われている斑点模様が全身を覆っています。

 

パーティーカラー

 

白い被毛部分が入ったパターンです。白い被毛の割合により”バイカラー”、”バン”などと呼ばれます。

・キャリコ(三毛猫)

黒・赤・白の柄模様で日本では三毛猫と呼ばれています。

・バイカラー

身体全体の1/3~1/2が白色で、特に四肢や腹部が白い被毛で覆われているものが多いです。

・バン

身体のほとんどが白い被毛で、頭と尾だけに色が入っている柄模様を指します。

・ハーレクイン

白い被毛の入り方がバイカラーとバンの中間の割合の柄模様を指します。

 

ポインテッド

 

頭や耳、足や尾などの身体の一部分が濃い色が付いている柄模様を指します。

猫種としてはシャム、ヒマラヤン、ラグドールなどです

・ソリッドポイント

身体の末端部のポイントカラーが単色の柄模様のことを指します。

・リンクスポイント

顔部分などのポイントカラーに縞模様のあるタイプを指します。

・トーティーポイント

ポイントカラーに赤と黒が入った状態を指します。